精神科医として30年近く働いてきて思うことがあります。
私を含めて、医師が薬に頼りすぎているのではないかと。
統合失調症やてんかんなどの精神疾患の治療には、薬物による治療が欠かせません。病状の改善に必要な薬を選び出し、十分な効果が得られて、かつ副作用がなるべく起こらないように調整することは、医師の大切な役割です。大半の医師はその役割をしっかり果たしていると思うのですが、治療が思うようにうまくいかない時には、副作用の辛さを訴える患者さんの希望や意見を十分に聞かずに、症状を改善しようとしてついつい薬の種類や量を増やしていってしまうことがあります。そうした時こそ、医師としての意見を患者さんやご家族にわかるように伝え、一緒に悩み、時には耐えて、患者さん本人のご希望を尊重していくことが大切だと思います。
そのためには、医師が薬物治療以外に頼れるものを持つようになる必要があります。力動的精神療法や集団精神療法、認知行動療法などの治療技法はもちろんですが、精神科看護師や精神保健福祉士、臨床心理士、作業療法士などの他の専門職種の力がとても強い力になります。その力をうまく使えば、薬物治療に頼りすぎる必要はなくなります。
さらに一番大事なのが、ご本人とご家族の力です。症状がつらい時には見えなくなりがちなのですが、患者さんご本人やご家族が持っている本来の強みや良さをうまく使えるようになれば、薬物治療は必要最低限で済むようになることが多くなります。
当クリニックは、当初は医師1名、看護師1名、パートの臨床心理士2名の小さなクリニックとしてスタートします。しかし地域の訪問看護師や作業療法士、精神保健福祉士の力を借り、行政のバックアップも受けながら、ご本人やご家族が本来の力を取り戻し、さらに成長できるような手助けをしていきたいと考えています。
土呂メンタルクリニック 院長 竹林 宏